Luminous Mind本編

Prologue

床に落ちる微かな紙擦れの音で目が覚めた。徐々に明瞭になる見慣れた部屋の景色。南の窓から穏やかに日が差し込んでいる事から察するに、もう昼過ぎなのだろう。どうも自分は眠りが浅いらしい。仕事柄、身体に染み付いた癖なのだろうがどうせ自室に居る時くら…

第一章 依頼と光使い

 「まぁ……そう美味い話があるわけ無ぇんだよなぁ……」誰へとも宛なく呟く声。ジルバスの街の片隅、ゼクティスは早々と途方に暮れていた。先ずは依頼状にあったレヴィアとか言う少女と合流しなければならないはずなのだが、生憎あの依頼状には少…

第二章 聖都へ

一旦レヴィアと共にジルバスに戻ったゼクティスは、数日の準備期間を設けた後に聖都に向かうことにした。聖都と言うのは現在稼働する主要六都市と、その他派生都市統括の役割を担う都市であり、別名中枢都市とも呼ばれる世界最大の都市である。本心では一刻も…

第三章 転換

どれ程の時間が経ったのだろうか。遮幕を取り去られる様に、レヴィアは何の前触れもなく目を醒ました。視覚に飛び込んでくるのは見慣れない天井の壁模様。こうやってベッドに横になっていると言うことは恐らく何処かの宿であろうか。「あれ、ここって……。え…

第四章 凍し追憶

聖都からの脱出劇を経て、派生都市を経由しつつゼクティス達は当面の目的地であるアルザラを目指し北へ北へと進んだ。本来ならば北方は第壱都市の管轄下に入るのだが、中には聖都が管轄している派生都市もある。アルザラもその中の一つであった。目的地は兎も…

第五章 もう一人の光使い

アルザラの宿の一室、四人は今後の予定を話し合う為、テーブルを囲んでいた。雪山へ向かう前、既に一度世話になっていた宿と同じ宿である。しかし前回と違い、レイシェントの存在が一人増えている事に驚いた様子ではあったが、流石に客商売を弁えていると言っ…

第六章 第壱都市

ヴァスティロード教団——その本拠地を第壱都市に置き、根強く人心を集めるそれは現在この世界に於いて、中枢都市聖都に次ぐ権力を持つ組織になるだろう。信仰組織を中核として据える第壱都市は別名『宗教都市』などとも呼ばれる。教団の文言を銘打つ以上、も…

第七章 庇護の眼

先に駆け出したのは、緑髪の少年の方だった。分厚い双剣を翼の様に広げて構え、何事か意味を成さない声をあげながら真っ直ぐに屍人形を従えた少女へと向かって行く。応じてクルシュケイトも動く。鮮やかな青の眼には冷酷さが宿るばかりで、いつもの彼女の明朗…

第八章 集う舞台

ゼクティスらが都市内の哨戒に参加するようになり、早数週間。短期間ながら魔物との遭遇率は日増しに増え、今や武器や自衛手段も無く夜間外出をするなど自殺行為とも言える状況に変わっていた。これでは都市の中も外も大差が無い。これでは、相応の税を払って…

第九章 宵は暮れる

もう空に黄昏る陽光の色は僅かも残ってはいなかった。ゼクティスはこの邂逅で、初めて〝先生〟の持つこの〝DIABOLOS《ディアボロス》〟の刀身から繰り出される斬撃を間近に見た。そして、この刀が悪魔を意味する銘を持つ所以を身を以て理解した。昔、…

第十章 皆、夜へ赴き

一体どれほどの時間、地に伏したままでいたろうか。もしかすると、意識を失っていたのかも知れない。数時間経った気もすれば、数分も隔てていない気もする。消耗しきった体力の中で得られる感覚では、全てが曖昧であった。「何が待ってる、だ……。勝手な事言…

第十一章 赤月に沈む

 成り行き上、仕方無しにジェノブロウと行動を共にすることとなったゼクティスは、全く以て不本意ながらも白装束の男の後に続いて移動していた。目指す軌道エレベーターは、多階層に分かれるこの聖都を洸晰精製炉同様に刺し貫くかたちで存在する。向かうのは…